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「グリーン冷媒対応冷凍機油の基礎研究」に関する論文がトライボロジストに掲載(2022年9月)

家庭用ルームエアコンには、2030年までに環境負荷の小さい低GWP(Global Warming Potential)冷媒、いわゆるグリーン冷媒への転換が急務となっており、当社でも冷凍機油の開発を推進しています。冷媒を加圧する圧縮機潤滑部は、冷媒と冷凍機油が共存する複雑かつ特殊な潤滑場であり、グリーン冷媒に対応する冷凍機油開発においては、先んじて潤滑特性に及ぼす冷媒の詳細な影響把握ならびに潤滑メカニズムの解明がより一層重要となっています。当社は、グリーン冷媒であるHFO(Hydro Fluoro Olefin)冷媒に着目し、現在主流の冷媒に比べて潤滑性が向上すること、その理由として冷媒自体が金属新生面に吸着しやすく、冷媒由来の反応被膜を形成することを実験、分析で明らかにしました。これらの研究成果は、岩手大学名誉教授である森 誠之先生との共著として、本年9月発行の日本トライボロジー学会誌(トライボロジスト)に掲載されました。

グリーン冷媒、冷凍機油
グリーン冷媒としては、自然冷媒(プロパン、二酸化炭素、アンモニア)やHFO冷媒などが候補として挙げられ、これら低GWP冷媒の混合冷媒も数多く提案されています。特にHFO冷媒は、分子中に炭素炭素の二重結合を有している点が化学構造的に大きな特徴です。圧縮機潤滑部の摩擦や摩耗を低減する冷凍機油は、冷媒分子構造に応じた相溶性を有する基油構造の最適化、および摩耗防止剤をはじめとした添加剤の最適処方が重要な技術となっています。HFO冷媒対応冷凍機油開発では、特に摩耗防止剤の選定において、冷媒の潤滑特性への影響把握が不可欠になっています。
金属新生面
圧縮機潤滑部は、高圧冷媒下において金属部品が擦れあう過酷な環境であり、部品最表面の金属酸化物が摩擦摩耗により機械的に除去され、金属そのものの表面である金属新生面が現れてきます。金属新生面は化学的に活性であることが知られており、摩耗防止剤が吸着、反応し、摩耗を軽減する潤滑被膜が形成します。森先生が開発された金属新生面への吸着挙動の実験手法により、今回、HFO冷媒が鉄新生面に吸着しやすいことが明らかとなりました(図1,2)。引き続き、冷媒分子構造の依存性、摩耗防止剤との比較、更には分子シミュレーションによる検証を行っており、今後、論文第2報として投稿する予定です。
図1 HFO冷媒の鉄新生面への吸着にともなう圧力変化
図2 鉄新生面への吸着しやすさ