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「トライボロジー会議2023 春 東京」 共同研究先が学生奨励賞を2件受賞

2023年5月に開催された「トライボロジー会議2023 春 東京」において、「当社潤滑油研究開発部と東京理科大学」、ならびに「当社中央技術研究所と兵庫県立大学」の共同研究成果を各々の大学から報告いただき、学生奨励賞を2件受賞しました。
同賞は、年2回(春・秋)開催されるトライボロジー会議ごとに選考され、トライボロジー※1に関して優れた研究成果をあげた学生に贈られるものです。

  1. (1)東京理科大学:湯淺大海 氏(修士課程1年)
    (受賞題目:基油の極性が冷凍機油用リン系摩耗防止剤の吸着特性に及ぼす影響)
  2. (2)兵庫県立大学:堀尾巴人 氏(修士課程2年)
    (受賞題目:ZnDTPおよびMoDTC添加剤の化学反応ダイナミクス:ニューラルネットワークポテンシャルを用いた分子動力学シミュレーション)

~基油の極性が冷凍機油用リン系摩耗防止剤の吸着特性に及ぼす影響~

潤滑油は一般的に、基油と添加剤(酸化防止剤、摩耗防止剤など)で構成され、鉱物油として一般的な炭化水素系基油とリン系摩耗防止剤の組合せに関する研究は数多く報告されています。一方、基油にエステルを用いた研究事例は多くありません。本研究では、エステル基油とリン系摩耗防止剤の両者に着目し、QCM※2(Quartz Crystal Microbalance/水晶振動子マイクロバランス)を分析機器に使用して、リン系摩耗防止剤のエステル基油中での吸着挙動を評価しました。

冷凍機油※3や油圧作動油など、基油にエステルを使用した潤滑油は、幅広く普及しています。当社は、大学とも連携して基礎研究に取り組み、最先端の潤滑油技術につながる知見の獲得に注力しています。当社と共同研究を進めている東京理科大学(創域理工学部・先端化学科)の酒井秀樹教授・酒井健一准教授の研究室※4では、「界面を自在に制御する」ことを指向した「新規界面活性剤の開発とその物性評価」を研究の大きな柱として、基礎研究や応用研究(企業との共同研究を含む)を展開しています。

  1. ※1トライボロジー
    2つの物体が互いに滑り合うような相対運動を行った場合の相互作用を及ぼしあう接触面、およびそれに関連する実際問題についての科学技術の一分野です。また、摩擦、摩耗、潤滑に関する学問の総称になります。
  2. ※2QCM
    水晶の薄い切片から成る素子をセンサーとして用い、センサーを共振させたときに得られる周波数を連続的に観測します。周波数の変化を捉え続けることで、センサー表面の物質(膜)と、その表面上の液中に滞留したり動いている物質(分子)との間に生じる相互作用(表面に吸着したり、表面から脱離したり、といった現象など)をリアルタイムに観測することができます。
    (引用:https://qsense.altech.jp/service
  3. ※3冷凍機油
    熱を移動させることにより高温・低温をつくり出す装置が冷凍空調機器であり、ルームエアコンや冷蔵庫が挙げられます。これらの機器は、蒸発器、凝縮器、熱膨張弁および圧縮機から構成されます。冷凍機油は、圧縮機内部の金属部品の摩耗を防ぐために使用されます。
  4. ※4東京理科大学 酒井秀樹・酒井健一研究室
    https://dept.tus.ac.jp/sakaisakailab/

~ZnDTPおよび MoDTC添加剤の化学反応ダイナミクス:ニューラルネットワークポテンシャルを用いた分子動力学シミュレーション~

本研究では、汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis™」を用いて、極圧添加剤として有名なジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)とジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)のトライボケミカル反応を検討しました。ZnDTPやMoDTCは、その分子骨格を構成する元素数が多く、従来の方法ではパラメータ作成が難しく、複雑なシミュレーションは困難とされてきました。

Matlantisは人工知能の技術を結集して開発された、高速・高精度・高汎用のシミュレータです。今回、Matlantisを用いることで、潤滑油が金属材料にサンドウィッチされ、かつ潤滑油中にZnDTPとMoDTCが共存するリアリスティックなモデルを作成し、これら添加剤の拡散・吸着・反応を追跡、2種類の添加剤が互いに影響を及ぼし合うトライボケミカル反応をはじめてシミュレーションしました。当社ではMatlantisをはじめ、シミュレーションやマテリアルズ・インフォマティクス技術の開発・実務応用に力を入れています。今後も、兵庫県立大学/鷲津研究室※5との共同研究を推進し、デジタルによる潤滑油開発の技術を強化していきます。

  1. ※5兵庫県立大学 鷲津研究室
    http://washizu.org/lab/
東京理科大学と当社関係者
東京理科大学と当社関係者
兵庫県立大学と当社関係者
兵庫県立大学と当社関係者