1. 原油・天然ガスの地理的分布
世界
南極大陸を除く地球上の全ての大陸において、商業生産が可能な量の石油が発見されている。アラスカのノーススロープやカナダの北極圏のような高緯度地域、また、南米大陸の南端部にも油田が存在し、さらに、最近では南極大陸にも多量の石油の埋蔵があるものと考えられており、石油鉱床の分布に地球の緯度的な制約はない。
海域に関しては、1950年代より本格的な海洋開発が始まり、今日までに大陸棚(海岸線から大陸斜面頂部までの間できわめて緩傾斜の海底、平均水深約130m)はもちろん、大陸斜面(大陸棚外縁からやや急勾配(こうばい)で深海底におりる斜面、水深はほぼ100~200mから2,900m超(2009年実績))においても商業生産が行われるようになっている。技術上、経済上の課題はあるものの、海域は未発見資源量の重要な部分を占めている。
このように、石油は地球上の広い範囲に分布しているが、量的分布はきわめて不均等で偏っている(図 1-1-2-1、図 1-1-2-2)。これは後述するように、石油や天然ガスは堆積盆地(周辺部よりも堆積物が厚く累積した地域で、地形学的な盆地とは異なる)内で生成されるが、その分布自体が均一ではないうえに、堆積物の量や種類が異なり、また、地質的条件も、それぞれ異なっているためである。
- 図 1-1-2-2 主要地域別石油・天然ガス生産量(2023年)
- 出所:The Energy Institute Statistical Review of World Energy
日本
日本の主要産油・産ガス地域は、新潟県から秋田県を経て北海道に至るが、日本全体からみればごく限られている(図 1-1-2-3)。日本にも幾つかの堆積盆地があるが、いずれも規模は大きくなく、火山活動の影響もあって、石油鉱床成立の条件(後述)を満たしていないものが多い。しかし、既存油・ガス田地帯の延長部である北陸・山陰沖や、既に天然ガスの発見されている常磐沖堆積盆地を含む東北日本の太平洋側の一連の堆積盆地等に、石油鉱床賦存の可能性が残されている。
- 図 1-1-2-3 日本の主要油・ガス田地域
2. 原油・天然ガス生産地の地質構造
石油鉱床
石油鉱床とは、地下において採取し得る量の石油が集積している部分を指す。世界の石油・天然ガス鉱床の99%以上が堆積盆地内に分布している。
石油鉱床は、地質時代的にはあらゆる時代にわたっているが、原油については中生代(2.5億年~6,500万年前)が55%、新生代第三紀(6,500万年~160万年前)が31%で、全体の86%を占め、古生代(5.7億年~2.5億年前)は14%、新生代第四紀(160万年前以降)は極めて少ない。中生代が特に多いのは、中生代の堆積盆地は、石油の根源となる有機物を大量に堆積するのに非常に好環境であり、その後の地史的環境も石油の生成、保存に好適であったためであると考えられている。全世界の確認埋蔵量の約6割を有している中東地域の大油田のほとんどは、中生代の地層から原油を産出している。
天然ガスについては、古生代28%、中生代44%、新生代第三紀28%で、原油の場合に比べて古生代の地層に天然ガス鉱床がよく発達している。天然ガス鉱床には原油の分解生成によるもののほかに、石炭が根源と考えられるものも多く、この点、石炭鉱床が古生代(石炭紀、二畳紀)によく発達していることと重要な関係がある。
石油鉱床の生成要因
石油鉱床生成のための基本的要因として、以下の4点(a、b、c、d)が挙げられる。
- 有機物に富んだ堆積物(根源岩)の存在と、有機物の熟成による石油の生成
- 石油が集積し得る貯留岩の存在
- 石油の散逸を妨げる地質条件(トラップ)の存在
- 石油の移動・集積
石油鉱床が生成するためには、上記4点全ての要因が揃うことが必要ではあるが、揃っただけでは不十分で、例えばcのトラップが存在していても、dの移動・集積のタイミングが、それよりも早かったり遅かったりすれば、石油鉱床は生成しない。また、これら各要因の良否が石油鉱床全体の品質の善し悪しを決定する。
上記生成要因は、在来型の石油・天然ガス資源を対象とした要因ではあるが、2000年ごろから、米国で開発が始まったシェールガス、シェールオイルに当てはめてみると、aの根源岩はシェールが元々根源岩層を直接開発しているものであり、bの貯留岩はその根源岩層が貯留岩の役目をしているが、動きにくい(低品位の)貯留岩であるため水圧破砕等の処置が必要になり、cのトラップは同様に根源岩内に閉じ込められて(トラップされて)散逸を免れており、dの移動・集積については、ほとんど移動していないと見れば、同様の要因で石油鉱床が成立していると理解できる。
以下に石油鉱床の生成要因の解説をするが、aの根源岩と石油の生成については3.石油の生成過程を参照願いたい。
貯留岩
石油や天然ガスは、地層を構成する岩石の粒子間の孔隙(こうげき)や小さな割れ目等に貯留されている。十分な量の石油・天然ガスを貯留することができる岩石を貯留岩という。世界の油・ガス田では、砂岩および炭酸塩岩(石灰岩、ドロマイト)が貯留岩となっているものが90%以上を占め、巨大油田・巨大ガス田の40%以上は炭酸塩岩が貯留岩となっている。
貯留岩性状の良否は、孔隙率と浸透率で評価される。孔隙率は岩石に占める空隙の比率で、孔隙率が大きい貯留岩ほど石油・天然ガスを貯留する能力が大きい。浸透率は岩石中での流体の流れやすさを示す値で、一般に孔隙率と相関があり、孔隙率が高いと浸透率も高くなる。
トラップ
石油および天然ガスは、一般に水よりも軽いため、地層中を上方へ移動しようとする。移動してきた石油・天然ガスを集積し、貯留させる地質条件の備わった場所をトラップといい、次のように3種類に大別される(図 1-1-2-4)。
- 構造トラップ:褶曲(しゅうきょく)や断層等、構造運動によって生じたトラップ
- 層位トラップ:貯留層の岩相変化や不連続、地層の不整合等、堆積作用に起因して生じたトラップ
- 組合せトラップ:上記a.、b.の要素の複合により成立するトラップ
- 図 1-1-2-4 代表的トラップタイプ
トラップのうち最も基本的かつ重要なものは背斜トラップであり、世界の主要油・ガス田の8割はこの構造である。
トラップの成立には、貯留層の上方または側方を覆い、石油・天然ガスの散逸を妨げる働きをするもの(シール)の存在が不可欠である。一般には、緻密な泥質岩や蒸発岩(岩塩等)がシールとなる。特に、貯留層の上位を覆う非浸透性の岩石を帽岩(キャップ・ロック)と呼ぶ。
移動および集積
在来型石油鉱床は、上記の要件(石油の生成、貯留岩、トラップ)のどの一つが欠けても成立しないが、移動・集積の時期とトラップ形成のタイミングが合わなくても成立しない。石油の移動が起きている地質時代に、移動の経路に、既にトラップが存在していることが重要であり、さらに、石油がトラップに集積して以降、トラップが破壊されないことも必要である。
3. 石油の生成過程
石油の成因については、長い間、有機(生物)起源説と無機(無生物)起源説とが対立してきたが、現在、有機起源説に異論を唱える者は非常に少ない。有機起源説の中で最も有力な説は、ケロジェン起源説である。
石油のもとになる根源物質は、堆積物中に取り込まれた有機物で、その大部分は植物に由来しており、通常は泥質岩に多く含まれる(図 1-1-2-5)。これらの有機物は、堆積直後から化学的、生物化学的、さらには物理的作用による変質を受ける。
- 図 1-1-2-5 石油の生成過程
- 出所:石油連盟「石油Q&A」(1998年)
水中の溶存酸素量の多い水域では、酸素を利用して生育する好気性バクテリア、菌類、清掃動物などにより、有機物のほとんどが分解されてしまう。しかし、溶存酸素量の少ない還元的環境の水域の場合、好気性バクテリアに代わって、酸素のある所では発育できない嫌気性バクテリアが優勢になり、有機物中の脂質やリグニンの分解は最小限にとどまり、炭水化物やタンパク質も保存される。
嫌気性バクテリアによる発酵および腐泥化と呼ばれる微生物分解の後、埋没によって、各化合物の重縮合反応が起こり、フルボン酸やフミン酸が形成される。その後、非常にゆっくりとした不溶化作用によって、ケロジェン(有機溶媒やアルカリ溶液に溶けない高分子の有機物)が形成される。地層とともにさらに埋没していくと、ケロジェンは地熱の作用により石油や天然ガスを生成する。この過程を、ケロジェンの熟成(根源岩の熟成)という。この熟成作用で生成された油やガスのうち、根源岩から排出されて移動し、トラップに達したものが石油や天然ガス鉱床を形成する。
石油の生成には根源岩(有機物)の熟成が重要であり、有機物に富む根源岩が存在しても、熟成しなければ石油は生成されない。また、根源岩は熟成が進み過ぎると天然ガスを生成するようになり、生成した石油も天然ガスに分解してしまう。
ケロジェンは、表 1-1-2-1に示すように、根源物質に由来する組成の特徴から、油指向型、中間型、ガス指向型の三つのタイプに分類される。
- 表 1-1-2-1 根源物質の違いによる油・ガス指向性の違い
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ケロジェン・タイプ 油・ガス指向 根源物質 タイプ I 油 藻類 タイプ II 中間型 海生プランクトン、底生生物、陸上植物の樹皮、葉、胞子、花粉など タイプ III ガス 陸上高等植物の遺骸(木部質)
- [参考文献]
- 1)石油天然ガス・金属鉱物資源機構「石油・天然ガス用語辞典」
- 2)The Energy Institute Statistical Review of World Energy 2023