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1. 種類・用途と規格
自動車ガソリンは、主に自動車用火花点火式内燃機関(ガソリンエンジン)として、その他農業用、林業用等の同様な内燃機関にも広く使用されている。
JIS規格(JIS K2202)では、オクタン価の違いによって、ハイオクガソリン(1号:オクタン価96以上)とレギュラーガソリン(2号:オクタン価89以上)に分類されている。
(1)品質確保法におけるガソリンの品質規格
1996年4月に、「特定石油製品輸入暫定措置法」(特石法)が廃止され、石油製品の輸入が自由化された。それまで、石油製品の品質は、ガソリンの一部性状を除き、法律による基準がなく、各石油精製業者の自主努力やJIS規格により、世界的にも高い水準を維持してきた。
この特石法廃止に伴い、種々の品質の石油製品が流通する恐れがあるため、必要最小限の品質を維持する目的で、従来の「揮発油販売業法」(揮販法)を改正した「揮発油等の品質の確保等に関する法律」(品質確保法)が、新たに制定された。
すなわち、同法では、燃料油のうちガソリン、灯油、軽油に関し、環境・安全面に関わる項目について、法的規制である品質基準(強制規格)を設け、規格を外れた製品の製造・販売を禁じている。
ガソリンの品質確保法の強制規格は、鉛、硫黄分、MTBE、ベンゼン、灯油、メタノール、実在ガム、色の8項目が規定されているが、2003年8月の改正により、次の2点が追加された。
- アルコール類等の含酸素化合物の酸素分は1.3質量%以下であること
- エタノールについては3容量%以下であること
その後、2006年11月30日に、再度品質確保法が改正され、2008年1月1日からは硫黄分の規格値を0.001質量%以下に改めるよう定められた。
中央環境審議会において、バイオエタノールを10%混合したガソリン(E10)対応ガソリン車の排出ガスの基準等に関する答申がなされたことを踏まえ、「自動車の燃料の性状に関する許容限度および自動車の燃料に含まれる物質の量の許容限度」及び「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」が改正され、E10対応ガソリン車が市場に導入される環境が整えられた。品質確保法の一部が改正されE10に係る規格等を定められ、E10対応ガソリン車に限定してE10を販売することができるよう環境を整えた。(2012年4月1日より施行)
表 2-1-1-1に品質確保法によるガソリンの強制規格を示す。
- 表 2-1-1-1 品質確保法によるガソリンの強制規格
-
項目 満たすべき基準 観点 鉛 検出されない 環境 硫黄分 0.001質量%以下 環境 MTBE 7体積%以下 環境 ベンゼン 1体積%以下 環境 灯油 4体積%以下 安全 メタノール 検出されない 安全 実在ガム 5mg/100mℓ以下 安全 色 オレンジ色 安全 酸素分※1 1.3質量%以下 環境 エタノール※1 3体積%以下 安全 - 注記:
- ※1.E10 対応ガソリン車の燃料として用いるガソリンを販売又は消費しようとする場合における規格値は、それぞれ以下のとおり。
含酸素率:3.7質量%以下
エタノール:10体積%以下
(2)JIS規格におけるガソリンの品質規格
JIS K 2202規格は、自動車業界、使用者団体および石油業界の合意の下に自動車ガソリンに対する要求品質を規定しており、要求品質は時代に合わせて改正が実施されている。
自動車ガソリンは、オクタン価(リサーチ法)によって1号系統及び2号系統の2つの系統に区分し、その系統ごとに酸素分で区分することで、1号および1号(E)、並びに2号及び2号(E)の計4種類に分類される。なお、1号(E)および2号(E)はこの規格の燃料に対応した車両(E10対応ガソリン車)のみで使用できるガソリンである。
要求品質を表 2-1-1-2に示す。
- 表 2-1-1-2 自動車ガソリンのJIS規格(JIS K2202-2023から抜粋、2023年11月改正)
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項目 種類 1号 1号(E) 2号 2号(E) オクタン価(リサーチ法) 96.0以上 89.0以上 密度(15℃)g/cm3 0.783以下 蒸留性状
(減失量加算)10%留出温度℃ 70以下 50%留出温度℃ 70以上105以下 70以上105以下※3 70以上105以下 70以上105以下※3 90%留出温度℃ 180以下 終点 220以下 残油量容量% 2.0以下 銅板腐食(50℃) 1以下 硫黄分(質量%) 0.0010以下 蒸気圧※1(37.8℃)kPa 44以上78以下 実在ガム※2mg/100ml 5以下 酸化安定度min 240以上 ベンゼン容量% 1以下 MTBE容量% 7以下 エタノール容量% 3以下 10以下 3以下 10以下 酸素分質量% 1.3以下 1.3超3.7以下 1.3以下 1.3超3.7以下 色 オレンジ系色 その他一般事項 水、沈殿物、メタノール、灯油を含まないこと - 注記:
- ※1.寒候用のものの蒸気圧の上限は、93kPaとし、夏季用のものの蒸気圧の上限は65kPaとする。2012年改正規格で追加された1号(E)、2号(E)には、上記寒候用と夏季用に加え、”エタノールが3%(体積%)超えで、かつ、冬季用のものの蒸気圧の下限値は55kPa 、さらにエタノールが3%(体積%)超えで、かつ、外気温が-10℃以下となる地域に適用するものの蒸気圧の下限値は60kPaとする”が追加された。
- ※2.未洗実在ガムは、20mg/100ml以下とする。
- ※3.エタノールが3%(体積分率)超えで、かつ冬季用のものの50留出温度下限値は65℃とする。
2. 性状
ガソリンは主に炭素数4~10の炭化水素成分で構成されており、必要に応じて各種添加剤が加えられている。要求される主な性能はアンチノック性、車両運転性(蒸留特性、蒸気圧)、酸化安定性などである。また、要求される性状して硫黄分が少ないこともあげられる。
(1)オクタン価
アンチノック性はオクタン価で評価され、オクタン価が高いほどアンチノック性が良い。実験室測定法として、リサーチ法(RON)およびモーター法 (MON)がある。ガソリンのオクタン価は、オクタン価の高い改質ガソリン、分解ガソリン、アルキレートガソリンを配合することにより調製されている。
炭化水素化合物の構造とオクタン価は、一般的には次のような関係がある。
- パラフィン系炭化水素では、メチル側鎖のないノルマルパラフィンより側鎖のあるイソパラフィンの方がオクタン価は高い。イソパラフィン系炭化水素からなるアルキレートは、RONとMONの差が小さく、高速時のアンチノック性に優れている。
- オレフィン系炭化水素は、炭素数が同じパラフィン系炭化水素よりオクタン価が高い。
- ナフテン系炭化水素は、炭素数が同じノルマルパラフィン系炭化水素と、イソパラフィン系炭化水素の中間のオクタン価を有する。
- 芳香族系炭化水素は、オクタン価が最も高く、ほとんど100以上のオクタン価を示す。
(2)蒸留(分留)性状、蒸気圧
ガソリンの蒸留範囲は30~200℃程度で、蒸留性状とガソリン性能の一般的関係は、次のとおりである。
10%留出温度(蒸留する時にその10%が留出する温度)はガソリンエンジンの始動性と関係があり、高すぎると低温での始動性が悪化する。逆に低すぎると高温時にベーパーロックが起こりやすく、蒸発ロスの原因となる。
50%留出温度は加速性・暖気性と関係があり、高すぎると加速に時間がかかったり、エンジン始動時の暖気性に影響する。
90%留出温度は潤滑油への希釈や出力と関係がある。高すぎると潤滑油の希釈を起こしやすく、逆に低すぎると出力低下を起こす。
ガソリンの蒸気圧に関しては、高すぎると夏季の高温時に、ライン中でベーパーロックが発生し、アイドリング不良や加速性不良の原因となる。一方、蒸気圧が低すぎると、冬季など低温時にガソリンの蒸気が生成しにくくなり、始動性に影響を与える。
(3) 酸化安定性
ガソリンの酸化安定性は重要な性状で、安定性の悪いガソリンの場合、酸化劣化物を生成し、燃料系統の金属を腐食させたり、またガム質を生成して燃料系統を詰まらせる。一般的にガソリン中のオレフィン分が酸化安定性に影響すると考えられる。酸化安定度(誘導期間法)が酸化安定性の指標として規格化されている。
(4) 硫黄分
ガソリン中の硫黄分はエンジンからの排出ガス低減システムに悪影響を与えるため、車両の排出ガス規制の強化にともないガソリン中の硫黄分濃度も低下させてきた。
自動車ガソリンの硫黄分JIS規格は、1996年に0.010質量%以下と規定され、2004年の改正では0.0050質量%(50質量ppm)以下、2007年の改正では0.0010質量%(10質量ppm)以下へと段階的に低減された。10質量ppm以下は“サルファーフリー”と呼ばれており、日本の石油業界は世界に先駆けて2005年1月よりサルファーフリーガソリンの出荷を開始した。
ガソリンのサルファーフリー化によって、サルファーフリーの特性を生かした排出ガス低減システムを搭載した燃費の良い車両が登場することにより、CO2の削減も期待されている。
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