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このページは、目次の中の第2編の中の第2章の中の第2節 自動車用潤滑油のページです。

  1. 自動車用エンジン油の分類
  2. ガソリンエンジン油
  3. 陸上用ディーゼルエンジン油
  4. その他の自動車用潤滑油

1. 自動車用エンジン油の分類

(1)エンジン油の粘度分類

粘度は、エンジン油に限らず潤滑油の基本的かつ重要な性質を示す項目であり、使用温度が広範な自動車に使用されるエンジン油の場合には、SAE(Society of Automotive Engineers:米国自動車技術者協会)が定めたJ300規格(表 2-2-2-1)で、高温および低温時の粘度により分類されている。

表 2-2-2-1 自動車用エンジン油のSAE粘度分類(SAE J300 January 2015)
ASTM試験法 D5293 D4684 D445 D483
SAE粘度分類 低温
クランキング(CCS)粘度
以下, mPa・s
低温
ポンピング粘度 MRV
以下, mPa・s
動粘度
(100℃)
高温高せん断(HTHS)粘度
(150℃,106s-1
以上, mPa・s
以上,
mm2/s
未満,
mm2/s
0W
5W
10W
15W
20W
25W
6,200(-35℃)
6,600(-30℃)
7000(-25℃)
7,000(-20℃)
9,500(-15℃)
13,000(-10℃)
60,000(-40℃)
60,000(-35℃)
60,000(-30℃)
60,000(-25℃)
60,000(-20℃)
60,000(-15℃)
3.8
3.8
4.1
5.6
5.6
9.3










8
12
16
20
30
40
50
60














4.0
5.0
6.1
6.9
9.3
12.5
16.3
21.9
6.1
7.1
8.2
9.3
12.5
16.3
21.9
26.1
1.7
2.0
2.3
2.6
2.9
2.9/3.7 ※1
3.7
3.7

CCS:Cold Cranking Simulator
MRV:Mini-Rotary Viscometer
HTHS:High Temperature and High Shear Rate

注記:
※1.2.9は 0W-40, 5W-40, 10W-40用、3.7は15W-40, 20W-40, 25W-40, 40用

(2)エンジン油のAPI分類

一方、自動車用エンジン油の性能(品質)は、APIが定めた品質分類が広く利用されてきた。ガソリンエンジン油のAPI分類は、サービス分類として順次改訂され、現在はSNおよびSN/RC(SN with Resource Conserving)が発行されている。最近では日米の自動車工業会が設立した組織ILSAC(International Lubricant Specification Advisory Committee)規格も利用されている。ILSACは、1993年に独自の品質規格GF-1を制定以来順次改訂し、2010年10月からGF-5規格を発行し、GF-1からGF-4規格は利用されていない。ILSACは省燃費性能を要求しているので、GF-5規格は0W、5W、10Wのマルチグレード油を対象とし、APIのSN/RC規格と同一である。また、ディーゼルエンジン油のAPI分類は、コマーシャル分類として逐次改訂され、現在はCJ-4が発行されているが、我が国ではCF、CF-4がまだ使用されている。(表 2-2-2-2)

表 2-2-2-2 エンジン油のAPI分類とILSAC規格
油種 API分類 説明 ILSAC規格
ガソリン
エンジン油
SJ
  • 2000年迄のガソリン車用
GF-2
SL
  • 2003年迄のガソリン車用
GF-3
SM
  • 全てのガソリン車用
GF-4
SN,SN/RC
  • 全てのガソリン車用
  • SN/RCは、省燃費性の向上や排出ガス制御装置に悪影響を及ぼさないように更に改良されており、E85燃料までのエタノール混合燃料車でも使用可能。
GF-5
ディーゼル
エンジン油
CF
  • 予燃焼室式ディーゼルエンジン車用エンジン油(1994年制定)
 
CF-4
  • 高性能ディーゼルエンジン車用エンジン油(1990年制定)
 
GC-4
  • 高負荷ディーゼルエンジン車用エンジン油(1994年制定)
 
CH-4
  • 1998年米国排ガス規制適合車用エンジン油(1998年制定)
 
CI-4
  • 2002年米国排ガス規制適合車用エンジン(EGR装着)油(2002年制定)
 
CJ-4
  • 2007年型高速走行車両用排出ガス基準を満たす4サイクルディーゼルエンジン用および従来型の4サイクル高速ディーゼルエンジン用
  • 500ppm硫黄含有燃料まで使用可能であるが、15ppm以上の硫黄含有燃料を使用する場合は、排ガス対策装置に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要。
 

(3)エンジン油のACEA分類

欧州の自動車工業会(ACEA:Assosiation des Constructeurs Europeens d'Automobiles)は表 2-2-2-3に示すような独自の品質分類を制定している。

ACEA規格は、“A(ガソリンエンジン油)”、“B(軽荷重ディーゼルエンジン油)”、“C(排ガス対策車用エンジン油)”、“E(高荷重ディーゼルエンジン油)”の4つに分類されている。

また、ACEAにおける規格の認証の管理は、EELQMS(European Engine Lubricant Quality Management System)によって行われている。

表 2-2-2-3 ACEAのエンジン油品質分類
用途 分類 説明
ガソリン軽荷重
ディーゼルエンジン用
A3/B3-16
  • 高性能エンジン用ロングドレイン油
A3/B4-16
  • 高性能ガソリンおよび直噴式ディーゼルエンジン用油
A5/B5-16
  • 高性能エンジン用省燃費ロングドレイン油
排ガス対策装置
装着車用
C1-16
  • 低摩擦、低粘度の低リン低灰型省燃費エンジン油
    (P:0.05 mass%以下、硫酸灰分:0.5 mass%以下、HTHS粘度2.9mPa.s以上)
C2-16
  • 低摩擦、低粘度の省燃費エンジン油
    (P:0.09 mass%以下、硫酸灰分:0.8 mass%以下、HTHS粘度2.9mPa.s以上)
C3-16
  • 通常の粘度グレードの省燃費エンジン油
    (P:0.07~0.09 mass%、硫酸灰分:0.8 mass%以下、HTHS粘度3.5mPa.s以上)
C4-16
  • 通常の粘度グレードの低リン低灰型省燃費エンジン油
    (P:0.09 mass%以下、硫酸灰分:0.5 mass%以下、HTHS粘度3.5mPa.s以上)
高荷重
ディーゼルエンジン用
E4-16
  • 欧州排ガス規制(Euro1~Euro5)対応ディーゼル車用エンジン油(DPF装着車は除く)
E6-16
  • 欧州排ガス規制(Euro1~Euro6)対応ディーゼル車用エンジン油(DPF装着車などを含む)
E7-16
  • 欧州排ガス規制(Euro1~Euro5)対応ディーゼル車用シリンダ摩耗対策エンジン油(DPF装着車を除く)
E9-16
  • 欧州排ガス規制(Euro1~Euro6)対応ディーゼル車用シリンダ摩耗対策エンジン油(DPF装着車などを含む)

出展:ACEA European Oil Sequences 2016

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2. ガソリンエンジン油

(1)4サイクルガソリンエンジン油

4サイクルガソリンエンジン油は、エンジン内のピストンとシリンダ間、動弁系、軸受などの様々な摺動部分を潤滑すると同時に冷却、密封、洗浄を行っており、以下の性能が要求される。

  1. 適正な粘度を保つこと
  2. 酸化安定性が良いこと
  3. 摩耗防止性に優れていること
  4. 清浄分散性が良いこと
  5. 耐腐食性に優れること
  6. 消泡性が良いこと

最近では自動車の燃費低減に寄与する省燃費性と排出ガス制御装置への適合性が強く要求されるようになってきている。また、二輪車用には(社)自動車技術会が制定しているJASO T 903:2011があり、クラッチ摩擦特性によりMA、MBなど4分類されている。

(2)2サイクルガソリンエンジン油

50cm3クラスのファミリーバイクなどに使用される2サイクルエンジンでは、ガソリンとエンジン油が混合燃焼されるため、点火プラグの汚損や燃焼室堆積物などが少なく、潤滑性に優れたエンジン油が望まれる。従って、専用の2サイクルエンジン油が使用される。2サイクルガソリンエンジン油の性能分類はJASO M 345規格として制定されている。JASO M 345規格では、規定されたエンジン試験によってFB~FDの3グレードに分類されており、ポリブテンを配合した低排気煙のFCおよびFDオイルが主流になっている。

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3. 陸上用ディーゼルエンジン油

ディーゼルエンジンの燃焼形態はガソリンエンジンと異なり、シリンダ内に空気のみを吸入、圧縮して高温高圧になった状態に燃料を噴射して自己着火、燃焼させる機構となっている。ディーゼルエンジンの優秀な点はa.燃焼効率が高い(燃費が良い=CO2の発生量が少ない)、b.耐久性、信頼性が高いなどが挙げられるが、欠点としてはa.高価である、b.振動、騒音が高い、c.排出ガス中に窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM:Particulate Matter)が含まれるなどがある。

しかし、ディーゼルエンジンは、その優れた特徴からトラック、バスなどの大型商用車、建設機械および舶用エンジン等に広く使用されている。

ディーゼルエンジン油は、これらのエンジンに使用され、エンジン内のピストン、シリンダ、カムシャフト、軸受などの各摺動部、摩擦部を潤滑し、摩擦を低減するとともに摩耗を防止する。

我が国では、PMやNOxを低減するため、酸化触媒、NOx還元触媒やDPF(Diesel Particulate Filter)、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction)などの後処理装置が装着されるようになってきている。そして、これらの後処理装置に使用される触媒などに対する被毒や目詰まりを避けるため、JASO M 355:2008でエンジン油中のリン分、硫黄分および硫酸灰分を規定し、日本製エンジンに適合する品質のDH-2(トラック、バス用)、DL-1(乗用車クラス用)規格を設けている。

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4. その他の自動車用潤滑油

エンジン油のほかに自動車には様々な潤滑油が使用されている。ここで、そのいくつかの潤滑油を紹介する。

(1)自動車用ギヤー油

自動車では、エンジンで発生した動力を伝達したり、車速を変えるために様々な種類の変速装置が装備されている。これらの変速装置を潤滑し、円滑に作動させるためにギヤー油が使用される。

変速装置内のギヤーは、高温高荷重、高滑り速度などの過酷な条件で使用されるため、ギヤー油には優れた極圧性(耐焼付性、耐摩耗性)が要求される。

自動車用ギヤー油の分類には、エンジン油と同様にSAE粘度分類およびAPIサービス分類の二つの分類がある。表 2-2-2-4 および 表 2-2-2-5 に、それぞれSAE粘度分類とAPI分類を示す。尚、API分類では、現在はGL-5の規格試験のみを実施しているため、GL-4はGL-5の添加剤配合量を減らしたものが処方され、GL‐1、GL‐2、GL‐3およびGL‐6は生産されていない。

表 2-2-2-4 自動車用ギヤー油のSAE粘度分類(SAE J306 2005年6月改訂)
SAE粘度
グレード
150,000mPa・sに達する
最高温度、℃
動粘度(100℃)mm2/s
最低※1 最高
70W
75W
80W
85W
80
85
90
110
140
190
250
-55
-40
-26
-12
4.1
4.1
7.0
11.0
7.0
11.0
13.5
18.5
24.0
32.5
41.0




11.0
13.5
18.5
24.0
32.5
41.0
注記:
※1.CEC L-45-A-99 Method C(20h)試験後の粘度
表 2-2-2-5 自動車用ギヤー油のAPI分類
サービス分類 内容 相当規格
GL-4
  • 穏和なスピードや負荷条件下で運転されるスパイラルベベルやハイポイドタイプのアクスル用
 
GL-5
  • 高速もしくは低速高トルク条件下で運転されるアクスルのギヤー、特にハイポイドギヤー用
MIL-L-2105D規格
SAEJ2360
MT-1
  • バス、ヘビーデューティトラック(シンクロ装置を装着していない)トランスミッション用
 

(2)自動変速機油(ATフルード)

自動変速機油(ATフルード:Automatic Transmission Fluid)はATのユニット内に充填されており、エンジンで発生した動力を伝達する媒体としての機能や変速クラッチを適正につなぎ合わせるための摩擦調整機能、さらにはその他各種ギヤーを潤滑するための機能等が要求される。ATフルードとして、市場に広く普及していた米GM社のDEXRONR-IIIは2006年末にライセンスが終了し、現存するのはDEXRONR-VIのみである。また米Ford社のMERCONR規格も2007年6月にライセンスが終了し、MERCONR-V規格と低粘度のMERCONR-LV規格が運用されている。我が国の自動車メーカーはATのスリップロックアップ化、多段化、電子制御化による省燃費性の向上を図ってきたが、ATフルードには各自動車メーカーの要望に基づく独自規格が適用されるようになった。また、JASO M315:2013において、動粘度、せん断安定性、摩擦特性、シャダー防止性能により、1種 1-A13、1種 1-A-LV13、2種 2-A13の3分類が設定されている。

ATフルードに要求される機能を表 2-2-2-6 に示す。

表 2-2-2-6 ATフルードに要求される機能
機能 要求性能
エネルギー伝達媒体
  • 高温時も適正な粘度を維持すること
  • 低温時の粘度増加が少ないこと
  • シール材との適合性が良好なこと、泡立ちが少ないこと
冷却媒体
(摩擦による発熱防止)
  • 熱、酸化安定性に優れること
  • 非鉄金属を腐食しないこと
潤滑
  • 摩耗防止性に優れること
  • 耐焼付き性に優れること
摩擦調整
  • クラッチ、バンドに対して適正な摩擦係数が得られること
  • 摩擦係数の経時変化が小さいこと

(3)無段変速機油(CVTフルード)

CVTは、金属ベルトとプーリを利用した変速機構であり、プーリの幅を変えて、プーリのベルトにかかる部分の径を変化させることにより、ギヤー比を無段階に制御している。無段階変速機油(CVTフルード:Continuously Variable Transmission Fluid)は、このCVT内部の2つのプーリと金属ベルトの摺動部の潤滑および保護を行っている。CVTフルードに要求される性能は、前述のATフルードに要求される性能に高金属間摩擦特性を付与したものである。



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