本牧インサイト

分子構造情報を用いた重質油プロセス解析の取り組み
-新手法で見えてきた重質油の新しい世界-

石油精製分野では、プロセス開発や製油所の運転管理のために、様々な分析手法を用いて油の素性を表現しています。LPG・ナフサ・灯軽油のような軽質な炭化水素の場合は、ガスクロマトグラフ分析などの方法で分子組成を直接的に把握したり、沸点や極性の似通った成分をグルーピングし擬似成分化したりすることが可能です。一方で、蒸留塔の塔底から回収される残渣油は、分析不可能な高沸点成分を多く含むため、得られる成分情報に限度がありました。そのため、従来は、密度や粘度、不純物濃度などの代表性状で油の特徴を表現することが一般的でした。しかし、こうした手法では、プロセスの内部における油のふるまいを把握し記述するには、充分な精度が得られない場合があります。もし残渣油においても、分子組成や分子構造を把握でき、装置内の挙動を計算するシミュレータに反映することができれば、重質油に関わるプロセス開発や運転管理の面で、新たなブレイクスルーが期待できます。

このような目的のもと、当研究所では分子構造情報を用いた重質油プロセス解析を行っています。検討にあたっては、一般財団法人石油エネルギー技術センター(JPEC)が開発したペトロリオミクス技術を活用しています。本検討によって開発された詳細組成構造解析を用いると、例えば重質残渣油と軽質残渣油の分子構造の差を比較することができます(図1)。

図1:常圧残渣油の分子構造分布
図2:原料残渣油のアスファルテン分と脱硫反応速度の関係

分子構造情報を用いた、残渣油の精製装置である残油直接脱硫装置(Residual Desulfurization; RDS)の解析事例をご紹介します。5種類の残渣油を原料として、固定床流通式ベンチ反応器を用いて同一反応条件にて評価試験を行い、生成油を分析しました。図2のとおり、炭化水素の環数ごとの硫黄化合物の脱硫反応速度を比較すると、環数が小さいほど、反応速度が大きいことが分かりました。また、同じ環数であっても、原料残渣油のアスファルテン分と相関して反応速度が低下することも分かりました。これは、アスファルテン分が多いほど、触媒活性点の被毒や凝集体の形成により、反応性が低下するためと考えています。
流動接触分解装置(Fluid Catalytic Cracking; FCC)などの他の重質油プロセスについても、分子構造情報を用いて、より詳細なプロセス解析に取り組んでいます。

本検討は、平成28年度の「石油精製高付加価値化等技術開発補助金」および平成29~30年度「高効率な石油精製技術に係る研究開発支援事業費補助金」の助成のもとに実施したものです。

参考文献

  • 岩間、ペトロテック、42、(1)、29 (2018)