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「ケミカルループによるCO2還元」に関する論文がChemical Communicationsに掲載(2022年3月)

大気や排ガスから回収したCO2と再生可能エネルギーを用いて液体燃料を製造する「再エネ合成燃料技術」をはじめとするCO2利用技術では、CO2を反応性の高いCOに還元する工程が重要です。当社では、早稲田大学先進理工学研究科の関根研究室と共同で、ケミカルループ法によるCO2還元を開発しています。ケミカルループ法に用いられる酸化還元可能な材料(メディエーター)開発に関する今年度成果として、これまでの開発品の性能を大きく上回るCo-In2O3のメディエーターを見いだしました。500℃以下の低温でもケミカルループによりCO2からCOが生成することが見いだされ、かつ、高いCO2分解速度およびCO2転化率を実現しました。そして、これらの成果が本年3月21日発行の国際学会誌Chemical Communications誌(The Royal Society of Chemistry)に当社社員も連名で掲載されました。
“Efficient CO2 conversion to CO using chemical looping over Co-In oxide”
(10.1039/d2cc00208f)

【ケミカルループ法】繰り返し酸化還元可能なメディエーターをまず水素により還元し、そこへガスを切り替えてCO2を流すと、メディエーターの酸素欠損によりCO2が還元(メディエーターは酸化)されてCOが生じる仕組みです。メディエーターの還元と、還元されたメディエーターによるCO2還元を切り替えて繰り返し行うため、「ケミカルループ」と呼ばれています。このように反応場を切り替えることで低温においても高いCO2転化率が期待できます。

【メディエーターの開発】ケミカルループの実用性を高めるためには、目的とするCO2還元反応が、より低温で、より高速度/高転化率で行われることが必要です。本共同研究で見いだされたCo-In2O3は還元によりIn2O3格子内に酸素欠損を生じ、続いて、CO2導入によりCO2由来のO原子によって酸素欠損が埋まり COを生じます。この過程で還元されたInがCoと合金を形成、この合金によりO原子を捕捉し、それがさらに還元されたIn酸化物バルク層へと移動することで高いCO2転化率と高い転化速度を両立できます(図1)。また、これまでの開発品であるCu-In2O3系に対し、本メディエーターでは、Coとの合金化によりIn2O3をより強く還元することができ、その結果、中温域にて通常の逆シフト反応の平衡転化率よりも高いCO2転化率を実現しました(図2)。本材料の開発には汎用原子レベルシミュレータであるMatlantisも用いており、実験科学と計算科学の両面からアプローチすることで高性能な材料の探索を効率的に行っております。当社では、より低コストで環境負荷の小さい再エネ合成燃料製造プロセスの実現に向け本技術の研究を継続してまいります。

図1 Co-In2O3のCO2還元メカニズム概念図
図2 Co-In2O3のCO2転化率(既存材料系との比較)