新規な「Magic door」機構によるCO2の選択的捕捉に関する研究成果がAdvanced Scienceに掲載(2023年11月)
東京工業大学 理学院の河野正規(かわの まさき)教授、Usov Pavel(ユーソフ・パベル)特任助教ならびに同大学の嶋田光将(しまだ てるまさ)、ENEOS株式会社の 松本 隆也(まつもと たかや)首席研究員らは、CO2分離回収に向けた吸着材開発への取り組みとして、外部と接点を持たない細孔を有するMOF(Metal-Organic Frameworks、金属有機構造体)※1を開発し、従来の吸着機構とは全く異なる「Magic door」機構により、CO2を選択的に捕捉することに成功しました。これらの成果は2023年11月20日に学術雑誌「Advanced Science」※2に論文として掲載されました。
"Long time CO2 storage under ambient conditions in isolated voids of a porous coordination network facilitated by the "magic door" mechanism"(DOI:10.1002/advs.202307417)
既存のCO2分離技術である化学吸収法(塩基性溶液への吸収)および固体吸着法(塩基性吸着剤への化学吸着)は、CO2選択性が高い反面CO2の脱離において非常に大きなエネルギーを必要とします。一方、弱いCO2吸着力を利用する固体吸着剤(物理吸着※3)では小さなエネルギーで容易に脱着できるがCO2選択性が低いという課題がありました。
今回、CO2が通過する瞬間のみMOFのフレームワーク構造が微細変化することで外部と接点を持たない細孔へCO2を貯留し、その構造変化の際の活性化エネルギー※4の違いにより選択性を発現する「Magic door」機構を見出しました(図1, 2)。これにより、物理吸着レベルの小さなエネルギーでの脱離とCO2選択性を実現することができます。また、この新たな機構の検証には単結晶X線構造解析、分光学的解析に加え、汎用原子レベルシミュレータMatlantis™※5が活躍しました。
当社では、今後も様々な分野でのMOF利用に向けた技術開発を通して、カーボンニュートラル・循環型社会の実現や革新的素材の創出に貢献していきます。
- ※1MOF(Metal-Organic Frameworks、金属有機構造体)
金属と有機配位子が相互に繰り返し結合しネットワーク構造をもつ材料。活性炭やゼオライトを超える高表面積な細孔形成を実現でき、金属の活性サイトを形成/導入も可能なため、ガス吸着、分離、センサーや触媒など幅広い応用が期待されている材料。 - ※2Advanced Science(Wiley)
2022-2023のインパクトファクター(IF)が17.5である化学・材料科学系の雑誌。(参考:化学系を代表する学術誌であるJournal of the American Chemical Society(ACS)とAngewandte Chemie International Edition(Wiley)のIFはそれぞれ、16.4, 16.8) - ※3物理吸着
ファンデルワールス力と呼ばれる極めて弱い相互作用に基づいた吸着。 - ※4活性化エネルギー
CO2が吸着状態から脱離状態へ変化する際一時的に必要なエネルギー。脱離自体に必要なエネルギーとは異なり、状態の変化後にはキャンセルされるエネルギー。 - ※5Matlantis™
第一原理計算の結果を学習させることにより原子配列から物性を予測可能な汎用原子レベルシミュレータ。精度を保ったまま、従来の量子化学計算に比べ10,000倍以上の高速計算を実現し、より多原子の系のシミュレーションが可能。
https://matlantis.com/ja/
関連資料
- "Long time CO2 storage under ambient conditions in isolated voids of a porous coordination network facilitated by the "magic door" mechanism"(DOI:10.1002/advs.202307417)
https://doi.org/10.1002/advs.202307417 - 東京工業大学(titech.ac.jp)
https://www.titech.ac.jp/news/2023/067904